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連載

本に遇う 連載 175 

谷川雁の「下降人生」
河谷 史夫

2014年7月号

 谷川雁(一九二三~九五)という光が明滅した時代があった。

 当人がその晩年、ことのほか愛着した宮沢賢治を模して言えば、それは「あらゆる透明な幽霊の複合体」の現象であった。
 詩人、共産党員、工作者、炭鉱労働者の随伴者、教材会社の専務、労組弾圧者、子ども文化運動の指導者……と様々に顔を変えた。

 そうしてそれは「風景やみんなといつしよに/せはしくせはしく明滅しながら/いかにもたしかにともりつづける/因果交流電燈の/ひとつの青い照明」(『春と修羅』の序)とも見えたのである。

 秘術を尽くした暗喩に溢れる詩句と文章は「難解王」と称され、真に理解されたかどうかは怪しいが、戦後世代に影響を及ぼした思想家として吉本隆明とともに屈指の存在であった。両人については、「雁派」を自任して、幻の雁全集『無の造形』を単独編集した八木俊樹の名言がある。

「吉本には、たくさんついとるが、優秀なのはおらん。雁につくのは数少ないけど、みな優秀や」

多勢に無勢で、吉本本は・・・