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経済

三菱化学の好調インド事業に暗雲

州政府が突き付ける「無理難題」

2014年6月号

 インド市場で成功を収めた日本企業といえば、真っ先に出てくるのは自動車メーカーのスズキだろう。だが、産業界の中ではスズキと並ぶ成功企業として必ずその名が浮上する企業が実はもう一社ある。三菱ケミカルホールディングスの中核、三菱化学である。  同社はこの十五年間、インド東部の西ベンガル州ハルディアでプラスチックや合成繊維などの中間原料となるPTA(高純度テレフタル酸)の生産事業を展開してきた。スズキのように自動車という消費者の目に直接触れる花形商品とは違って、各種製品用途向けの中間原料であるために派手さはないものの、二〇一〇年にはインドPTA外販市場の六〇%を占める高いシェアを勝ち取ったほど事業は好調だった。  だが、順風満帆だった三菱化学に、ここにきて暗雲が垂れ込み始めた。「労働運動の盛んな土地での生産活動だけに派手な行動は慎んできたが、ここにきてやはりというべきか、数年前から抱いていた不吉な予感が現実になってきた」と語るのは、三菱化学のインド事業関係者だ。「不吉な予感」とは何か。その前に、ここ数カ月の間に起こった三菱化学のインド事業の変化を振り返る必要がある。 “人質”に取られた工場用電力・・・