もちろん中国には周到な計算が働いているのだが、最終的にビリヤードの一突きでこのような事態が生じるとは想定していなかったのだろう。ロシアがウクライナからクリミア半島を強奪した際の米国の対応に軍事力を行使する気配がないのを確かめ、オバマ大統領が同盟関係、パートナー関係を強化する目的で日本、韓国、マレーシア、フィリピンを訪れたものの、ことあるごとに、「われわれは中国と対抗するつもりはない」「中国を包囲するのはわれわれの目標ではない」と連発すれば、米国の真意をテストしてみるかとの気持ちになってもおかしくない。

　ところが、予定外にベトナムの強烈な反抗に遭遇してしまった。米国も行動はいっさい控えているが、強硬な声明を出し、さらに中国人民解放軍の将校五人がサイバー技術を使って商業機密を盗んだとして起訴した。戸惑っていた習近平国家主席にむしろ救いの手を差し伸べたのはロシアのプーチン大統領だったろう。五月二十、二十一の両日上海で開かれた「アジア相互協力信頼醸成措置会議（ＣＩＣＡ）」首脳会議では互いに信頼していないにもかかわらず、正式メンバーのベトナムやオブザーバーの米国の前で中・・・