三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

不運の名選手たち 53

本田晴美(競輪選手)鬼になれなかった「ターボエンジン」
中村 計

2014年5月号

 四月に開催された前橋競輪において、地元出身ではないにもかかわらず、唯一、大声援が飛んだ選手が五十歳の大ベテラン、本田晴美だった。
 
 往年のファンは、今より十キロほどやせていた頃、「ターボエンジン」になぞらえられた本田の驚異的な脚力を覚えている。そして「競輪道」に殉じたために、大レースで勝てなかった不運の選手であったということも。

 非情の捲り―。

 そう言われ、物議を醸したレースがある。一九八六年九月二十四日。プロ野球の世界では、まだ江川卓(元巨人)が投げ、ランディー・バース(元阪神)が打っていた時代だ。場所は、福島県平競輪場。第二十九回オールスター競輪でのことだった。

 ラスト一周の第三コーナーへ入る手前まで、本田はトップを快走していた。そしてコーナーへ入るなり、視界の右端に人影が映った。展開上、このタイミングで捲ってくる(追い抜いてくる)選手はいないはずだった。続いて車番が目に入る。我が目を疑った。チームを組み、真後ろを走っているはずの伊藤豊明だったからだ。

「えっ? ・・・