皇室の風 69
伽羅先代萩
岩井 克己
2014年5月号
萩の間」は宮殿の天皇の執務場所である「表御座所」棟の一角にあって、内庭に植えられた萩が目を楽しませ、執務や宮殿行事の合間に天皇・皇后がここで昼食をとることも多い。
その日も天皇・皇后の食事に相伴した側近らの間で窓外の萩の眺めが話題になり、こんなやりとりがあったという。
「歌舞伎にも萩の名のつく演目がありましたよね?」
「伽羅先代萩ですね」
「どんな話でしたかしら?」
「……仙台伊達家のお家騒動の話ですよ」
「……」
何気ない会話だったが、場の空気が一瞬凍り付きそうになってしまったという。
当時、皇太子妃は長期療養に入って公務や行事に全く出て来なくなり、皇太子の人格否定発言もあり、一部で天皇・皇后と皇太子夫妻との確執が取り沙汰されていた。天皇・皇后の周辺では「皇室が長年積み重ねてきたものが一気に崩れてしまう」と暗鬱な空気が漂っていた。気の置け・・・