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連載

本に遇う 連載 172

三好達治没後五十年
河谷 史夫

2014年4月号

季節ごとに三好達治を開くのがわが楽しみである。

 二月は「雪」であった。

〈太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。〉

 しんしんと更ける夜、音もなく降り積もる雪、藁葺き屋根が散開する集落、家々の中では……。

「民話的」と言う人がある。論者によって、太郎と次郎とは兄弟だ、いや別々の家の子供だ、と解釈の違いがあるらしい。詩歌の鑑賞というのも面倒なものだ。

 何が地球温暖化かと思うほど寒い日が続いた。今年ほど遅々とした春の到来が待たれた年はない。

〈山なみ遠に春はきて/こぶしの花は天上に/雲はかなたにかへれども/かへるべしらに越ゆる路〉
(「山なみとほに」)

 小太刀使いの名人のごとき、この詩人の言葉遣いの冴えには、若年時より唸るほかはなかった。

〈海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海・・・