日本芸術に咲き誇る「桜」たち
和歌や絵画での「花見」のすすめ
2014年4月号
日本を象徴する花――桜。日本に自生するこの花木の名は、瓊瓊杵尊の美しい妃・木花之佐久夜昆賣の「サクヤ」に由来するという。だから中国からこの花を指す「櫻」の文字が伝えられたときも、既に呼称として知られていた「サクラ」の音をこの漢字に当てた。
日本人と桜が蜜月の関係を結ぶために、〈漢を学ぶことで、和を意識する〉というプロセスを必要としたことは、いかにも日本らしい。すなわち遣唐使を派遣して中国の先進文化を学ぶ気運が最高潮に達した奈良時代、日本の文化人は、こぞって中国の漢詩を学び、彼らの美学に倣って梅の香りを賞賛した。『万葉集』に収められた春の花は、梅が桜の三倍を占めている。
ところが、平安時代に入ってしばらくすると、日本人の嗜好は梅から桜へと転じる。漢詩に対する倭(和)歌への意識の高まりは、日本の風土を彩る花に対する美学を喚起し、それは和歌や文学の世界の中で磨かれてゆく。日本最初の勅撰集『古今集』は、延喜五(九〇五)年に編纂され、ここで桜の歌は梅の二倍、と逆転する。
花の下にて春死なん
文化の担い手であった王朝人にとって桜とは、季節を彩る花木であ・・・