皇室の風 67
天皇と自衛隊
岩井 克己
2014年3月号
明治維新を描いた大佛次郎の大河歴史小説『天皇の世紀』は、大佛が京都御所の紫宸殿南庭に佇んで悠久の歴史を思い、源平の内裏攻防戦を想起する場面から始まる。六波羅を発して攻め入った敵将平重盛の馬を源氏の悪源太義平が追って、左近の桜と右近の橘の間を七度も八度も往復したという『平治物語』のクライマックスである。
「禁裏」にまで兵馬が入った例として他に思い浮かぶのは昭和二十年八月十五日未明の近衛兵乱入と玉音盤争奪騒ぎくらいだろう。宮内省庁舎で兵士になぐられながらも玉音盤を守った徳川義寛侍従(のち侍従長)の日記を読むと、直前の同十三日にこう記されている。
「近衛の兵を花蔭亭付近まで入れさせてくれと伝えてきたので、われわれはお文庫に近いから反対し(略)大金次官が森師団長へ行き過ぎの行為を取り締まるよう話された」
不穏な予感が漂っていたとはいえ、近衛に対してすら禁中・府中の峻別は厳しいものがあった。
昭和天皇の在位六十年祝典に反対する過激派の金属弾が飛び交うなか、皇居外周を警備する警視庁が機動隊の警備・・・