《政界スキャン》349
「安倍ユーゲント」を憂う
2014年3月号
あの人にそんな一面があったなんて、というのは人生でよく経験することだが、政治家との付き合いにもしばしばその手のサプライズがある。ある意味、うれしいことである。人物の幅が広がって感じられるからだ。
前衆院議員与謝野馨(七十五歳)もそんな一人だ。永田町有数の政策通ではあったが、人間的には今一つ、という印象がぬぐい切れなかった。麻雀、ゴルフ好きの遊び人であり、著名な祖父母の七光で当選してきたお気楽政治家というイメージだったこともある。
それが、実は衆院議員に初当選して間もない三十九歳で、悪性リンパ腫を発症してからというもの、いくつものがんの転移と壮絶な戦いをしてきた『全身がん政治家』(文藝春秋、二〇一二年六月)だったとは、正直言って驚いた。
後で聞いてみても、親しい政治家も役人も新聞記者も誰もその事実を知らなかった。そういえば、あいつの頭ははげてたよ、かつらだった、との「証言」は出てきたが、すべて後付け情報の類いであった。病を隠すのは政治家の宿命とはいえ、治療や通院を誰に感付かれることもなく、孤独のまま死に・・・