三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

政治

《罪深きはこの官僚》石川正一郎(神奈川県警察本部長)

被疑者逃亡事件の 責任取らぬ「公安エース」

2014年2月号公開


「石川の命脈が断たれればいいが」
 一月初旬に川崎で発生した強姦被疑者逃走事件を見て、刑事畑を歩んだ警視庁OBはこう漏らした。石川とは、神奈川県警本部長を務める石川正一郎のことだ。長年、警備公安が牛耳ってきた警察内で、石川は残された数少ないエースらしいエースとされる人物だ。

 一月七日に横浜地方検察庁川崎支部から逃走した強盗・強姦の被疑者は丸二日逃げ回った。この間に捜索に駆り出された警察官はのべ四千人を超える。車両、ヘリコプター、船舶まで投入しており、職員の超過勤務手当を考えれば一億円以上の血税が浪費された。 県警担当記者が語る。
「すぐにでも進退伺を出すレベルの失態だが、石川にその気はない。それどころか損害を少なく見せるためか、現場管理職が超過勤務手当申請を抑え込もうとしているとの声も聞こえる」

 神奈川県出身の石川は県内の私立進学校から東京大学に進み一九八一年に法学部を卒業、警察庁に入庁した。一貫して公安畑を歩み、二〇〇五年には警察庁警備局公安課長、〇七年からは同警備企画課長を務め、東日本大震災直後の一一年に警視庁公安部長になった。それ以前には公安警察の裏部隊「チヨダ」を担当する警察庁警備企画課の「ウラ理事官」も務めている。チヨダは、主に政界スキャンダルを収集して政治家に睨みを利かせる組織だ。

 〇九年、石川が栃木県警本部長を務めている時に「足利事件」の冤罪が確定。石川はテレビカメラの前で無実の罪で長年とらわれていた元受刑者に謝罪、「警察内で名を上げた」(警視庁担当記者)。

 しかし実際の石川はこんな殊勝な人物ではなく、警察内部、特にノンキャリア組からの評判が悪い。石川が公安部長だった際、方面本部長の退職送別会の席である「事件」が起きた。ノンキャリ警察官のおでこを酔った石川が突然叩いたのだ。叩かれた警察官は階級こそ石川よりも下だが年齢は上。警視総監もいる席での狼藉に周囲は唖然としたという。

 傲慢な石川の姿勢は部下への「パワハラ」という形で表れる。昨年八月に警視庁を退職した第三方面本部長は、公安部長の石川の下でさんざんパワハラを受けた挙げ句に左遷され無念のうちに退官した。実はこの元本部長の前任者も一昨年相次いだ誤認逮捕の詰め腹を切らされるように左遷され、一カ月で鬱状態になり退職に追い込まれた。第三方面本部長は公安キャリアが牛耳る警察人事の歪みの吹き溜まりポストになっている。

 昨年四月、「不祥事のデパート」といわれる神奈川県警に転出したが、就任以降も警察官の不祥事は相次いだ。また、一月には川崎の逃亡事件以外に横須賀の小泉純一郎元首相宅に不法侵入されるという失態も犯している。にもかかわらず石川の傲慢ぶりは相変わらずで、些細な誤報を見つけては新聞社の支局長を呼び出して謝罪させているという。誤報は許されることではないが石川の姿勢はあまりに「異様」(前出県警担当記者)だ。

 神奈川県警本部長は「上がりポスト」とも言われるが、石川の「出世の目はまだ僅かに残されている」(警視庁関係者)。今回の責任を取らずに石川がふたたび警察庁警備局長に返り咲くことがあれば、治安を実際に守っている現場捜査員の失望は計り知れず、警察の歪みは正されない。(敬称略)


掲載物の無断転載・複製を禁じます©選択出版