《土着権力の研究》愛媛県 井川家
大王城下町を支配する創業家
2014年1月号
JR予讃線、伊予三島の駅を降りると化学薬品特有の臭いが鼻をつき、ここが「紙の町」であることがわかる。年嵩のタクシー運転手は「昔よりはだいぶ臭いも少なくなった。そもそもこれはこの町の命の臭いだよ」と笑う。かつては三島村、その後伊予三島市、現在は合併を経て四国中央市となったこの地は大王製紙の城下町だ。
「何があっても井川家には逆らえない」
地元の小規模紙加工会社の経営者は語る。一九〇九年、宇摩郡三島村の紙原料商を営む井川家の長男として生まれた井川伊勢吉は、二八年に大王製紙の前身となる小さな商いをこの地で始めた。戦前戦中に事業を徐々に拡大して原料商社から製紙業に乗り出し、四三年に大王製紙株式会社を設立した。
一族への畏敬と畏怖
製紙業は七十年にわたって地元に根付き、市内には大小合わせて三百もの製紙関連事業所が存在する。この頂点に君臨するのが井川家であり、「当主は天皇のようなもの」(前出経営者)なのだ。毎年夏には市内中心部で二日間にわたり「四国中央紙まつり」が開催・・・