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社会・文化

ワイン界の女帝 「ルロワ」の実像

「生きる伝説」が醸す至高の葡萄酒

2013年12月号

 モーゼの十戒を思わせる光景だった。ラルー・ビーズ・ルロワが愛犬を連れて姿を現した瞬間、居並ぶプロたちが後ずさりし、道が開けたという。二〇〇一年にボルドーで開かれた見本市「ヴィネクスポ」のビオディナミ生産者試飲会でのこと。ソムリエの大越基裕氏は、今も忘れられない。  ブルゴーニュで時代を超えて最も偉大な造り手はだれか?  対象は一九八〇年代以降に絞られるだろう。ブルゴーニュの品質が向上し、安定したのがその時期だから。かつては貧しい産地だった。畑や醸造に資金をかけられず、ネゴシアンが支配していた。優良なヴィンテージは、天候と幸運の賜物にすぎなかった。八〇年代後半、世代交代が進み、栽培農家が自家元詰めを始めたのが、品質向上のきっかけとなった。  三人が候補に挙げられる。マダム・ルロワ、ブルゴーニュの神様と呼ばれたアンリ・ジャイエ、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)の共同経営者オベール・ド・ヴィレーヌ。八八年に引退したジャイエは、醸造や有機栽培で先鞭をつけたが、時代が早すぎて完成させるにいたらなかった。DRCはルロワも七四年から九一年まで、ド・ヴィレーヌと共同経営・・・