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連載

追想 バテレンの世紀 連載92

禁令下の長崎の宣教師たち
渡辺 京二

2013年11月号

 一六一七年二月、幕府は長崎住民に対して、宣教師を宿泊させることを禁じた。もちろんこの禁令によって、長崎キリシタンが宣教師をかくまうことをやめた訳ではないが、彼らが心理的重圧を感じたことは否定できない。

 この時期には、長崎住民はキリシタンであること自体はまだ咎められていなかった。一六一六年九月発令のいわゆる「元和二年の禁令」において、下々百姓に至るまでキリシタンたることを禁じると唱われていたにもかかわらず、また他領においては、事実キリシタン住民を棄教させるべく迫害が行われた例が少なくないのに、長崎においては、キリシタンたること自体で処罰されることはなかった。そうした迫害を長崎で行えば、収拾のつかぬ事態となることは明らかであったからだ。

 こうした長崎におけるキリシタン信仰の見逃しは、ドミニコ会士コリャードの徴集した「ろさりお組中連判書」によれば、一六二二年にもなお続いていた。同文書には「長崎中は出家衆のみ御法度にて、宗門にはさしてお構いこれなく候」とあり、宣教師のみ禁制で、信者自体は黙認されていたことを伝えている。

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