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連載

追想  バテレンの世紀 連載90

日本人による日本宣教へ
渡辺 京二

2013年9月号

マカオセミナリオの日本人学生は、当初は二八名であったものが、セミナリオ上長のフランシスコ・ピレスによれば、一六一七年一〇月には七名になっていた。同宿全体を見ても当初の五三名が同年には一七名にまで減少し、翌一八年には一〇名を残すのみとなった。

 明らかに大量の解雇・除籍が行われたのである。具体的な経過は不明なところが多いが、ピレスによると、カルヴァーリョがマカオ生れの学生たちに哲学の講義を約束し、その際日本人の学生を排除するため、彼らを帰国させようとしたところから騒動が起こった。折から巡察師に任じられたフランシスコ・ヴィエイラがマカオへ着いたが(一六一六年六月)、同宿たちは彼に不満を訴え、彼も善処を約したという。

 だがヴィエイラには、問題を解決する見識も器量もなかった。同宿たちはやがて、彼の約束が口先だけであるのに失望した。彼らはあるいは帰国し、あるいはマニラへやられた。カルヴァーリョは日本宣教に熱意を失うかわりに、インドシナ方面への布教に執着していたから、その方面に送られた者もいたかも知れない。こうしてマカオを逐われたのは同宿だけではない。・・・