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連載

本に遇う 連載164

調査報道の天才の死
河谷史夫

2013年8月号

「ヤマバク」という調査報道の天才がいた。七月、命を終えた。
 当今一記者の死なぞ記事にしない朝日新聞が、まことに異例のことにその訃を報じた。

〈山本 博さん(やまもと・ひろし=元朝日新聞記者、元朝日学生新聞社長)四日、心不全で死去、七十歳。葬儀は故人の遺志で行わない。後日、「お別れの会」を開く。

 北海道新聞を経て一九七〇年に朝日新聞入社。数々の調査報道に携わり、東京社会部時代に談合キャンペーンや東京医科歯科大教授選考をめぐる汚職事件の報道で新聞協会賞を二回受賞した。横浜支局次長として川崎市助役への未公開株譲渡問題を指揮し、後のリクルート事件に結びつけた〉

 政界財界官界の御用記者や社内政治がお得意の茶坊主とは一線を画して、山本は地を這う取材を実らせて特ダネを連打した。こんな記者は空前、そして絶後であろう。

 一九四二年、東京は月島に生まれた。早稲田大学第一商学部を出て北海道新聞へ入社。「須田禎一がいた社だからね」と語っていた。

 須田は朝日から道新へ移り、六〇年安保・・・