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社会・文化

富士の正体は「魔の山」

人智が及ばぬ遭難事故が「多発」

2013年8月号

 信じがたい光景だった。 「五十メートルぐらい上空を糸の切れた凧みたいに人が舞っていたんです」  そう振り返るのは、冬の富士山に五十回は入山しているという日本山岳会の副会長、古野淳だ。 「冬の富士山は世界一怖い山だと言っても過言ではない。なのに誰もそれを言わないのが不思議」  美しい山。荘厳な山。手軽に登れる山。日本国民が富士山から連想するイメージはだいたいそんなところではないか。  周知のように富士山は七月三日、ユネスコの世界文化遺産に登録された。今後、ますます登山者が増えることが予想される。それだけに今こそ富士山の「素顔」を知っておくべきだろう。  ひと昔前まで冬の富士山は、冬山訓練の定番だった。本格的な冬山シーズンに入る直前、十一月下旬になると大学山岳部や山岳会はこぞって富士山に入山した。その時期に国内で雪と氷がある山は富士山ぐらいしかなかったのだ。  だが訓練と呼ぶには、あまりにも危険過ぎた。冬の富士山を「魔の山」たらしめているのは特殊な風だ。古野が説明する。 「独立峰なので風が直接当たり、いろいろな風をつくる。風下は風が巻いてい・・・