三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

本に遇う 連載163

命の連鎖ということ
河谷史夫

2013年7月号

「片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」して旅に出ると言った芭蕉は元禄二年、奥州長途の行脚を思い立つ。「道祖神のまねきにあひて取もの手につかず」と、あわただしい出立ぶりを『おくのほそ道』に書き残している。

 わたしが五月の山形へ向かったのは、「月山の新緑を見に来ませんか」という、道祖神ならぬ友人長岡昇の招きを受けてのことであった。朝日新聞にいたときの同僚で、定年の四年前に辞めて帰郷。山形県が募集していた民間からの校長に応募して、生地朝日町の小さな小学校の校長になった。

 新聞ではニューデリーとジャカルタの特派員を経て論説委員に任じアジアを担当した。戦乱が起きれば現地へ向かい、大津波があれば被災地を巡った。外報系は総じて尻が重く動きたがらないが、長岡は珍しく現場主義を貫き、多くの理不尽な死を目撃してきた。

 アフガニスタンの難民キャンプに、戦闘に巻き込まれて孫を亡くしたという白髭の古老がいた。

「私のような年寄りが生き残り、命を授かって間もない孫が死んでいく。耐えがたい」

 訥・・・