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社会・文化

「ゲノム」が拓く最先端がん治療

遺伝子「ビッグデータ」時代の幕開け

2013年6月号

「未来はもう始まっている」  米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が三年も前に著書で述べた言葉だ。コリンズ氏は一九九四年から二〇〇八年にかけて米国立ヒトゲノム研究所の所長を務めた人物。同氏が生命科学で世界トップのNIH所長を務めていることは、現在の医療フロンティアがどこに拓けているかを端的に示す。遺伝子情報から個人に合わせた医療サービスを提供する時代はすでに始まっている。  厳密に言えば、遺伝子情報に基づく診断は以前から行われていた。先ごろ、米国の有名女優が自らの遺伝子の乳癌リスクの高さから乳房を切除したことがニュースとなった。日本国内では「我も我も」と医療機関が名乗り出て、こちらも大きく報じられた。実はこの遺伝子診断自体は目新しいものではない。ヒト十七番染色体に含まれるBRCA1という遺伝子の異常により乳癌や卵巣癌が引き起こされる確率が高いことが三木義男東京医科歯科大学教授らによって発見されたのは九四年であり、今回のニュースは騒ぎすぎの感が強い。 高速化する「シークエンス」  実際の遺伝子治療はすでに別の局面に移っている。東・・・