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社会・文化

「二百二十兆円被害」は空論

上田 誠也(東京大学 名誉教授)

2013年4月号

 ―二百二十兆円という南海トラフ地震被害予測をどう考えますか。
 上田
 数字が正しいかどうかは誰にも検証できない。東日本大震災の二十一兆円という被害額を考えた場合、人口分布などを見れば考えられないことはない数字だが、あくまで机上で積み上げたもの。こんな数字は、いかようにも操作でき、四百兆円にすることも容易だ。東日本大震災の時に「想定外」という言葉が飛び交ったが、それを避けるために数字を大きくしたのではないか。官僚の誘導で、学者がもっともらしい数字と根拠はつくれる。

 ―日本地震学会は震災後に「敗北宣言」をしました。
 上田
 そもそも学会の「地震学の敗北」という総括自体がピントずれしている。彼らは長年、予知に依拠した予算を確保しながら、短期予知研究の実績はほぼゼロに等しかった。つまり地震を予知するつもりがなかった彼らは、敗北するよりも前に土俵に乗っていなかった。にもかかわらず「短期予知は不可能」という反省は、従来の地震ムラの主張と全く同じことを繰り返したに過ぎず、総括になっていない。

 ―地・・・