ラファエロが描いた「真善美」
人間の本質を追究した「哲学的芸術」
2013年3月号
盛期ルネサンス三大巨匠の一人、ラファエロ・サンツィオ。一四八三年にウルビーノで生まれたラファエロは、この町の宮廷画家を務めていた父に絵画術の手ほどきを受け、その後ピエトロ・ペルジーノの工房で修業する。ラファエロの初期作品には師ペルジーノの様式が色濃く反映されているが、それはとりもなおさず彼が極めて真面目に師の高度な技法を習得した事を物語っている。
十六世紀にイタリアの芸術家の伝記をまとめたジョルジョ・ヴァザーリ(一五一一~一五七四年)の『ラファエロ伝』の記述は非常に興味深い。ヴァザーリの時代にあっても、およそ芸術家というものは変人ばかり、というのがすでに常識となっていたが、ラファエロに関しては、いかに彼が善人であったかをことのほか強調している。生来の「善」を具えた人物が「美」を志向する。これはまさしくルネサンス哲学の文脈にあっては、神において一点の曇りもない魂と感性の合一状態をラファエロが具現化していたと読む事ができる。善良で、真面目で、明るく、勉強熱心で、かつ芸術的天賦の才に恵まれ、まさに「死すべき神」に等しいとヴァザーリはいう。
ラファエロの描く作品はいずれもその・・・