ローマ法王ベネディクト十六世が、高齢を理由に退位した。ベネディクト十六世は一九八〇年代初頭から、バチカン宮殿の奥深くに長く巣食ってきた「究極のインサイダー」であり、その退陣はバチカンが維持してきた戦後システムの終焉を告げることになりそうだ。
資金洗浄、贈収賄、マフィア
八十五歳のベネディクト十六世は、最後の戦いに追いまくられた。二月十三日の「灰の水曜日」ミサで、「教会の一体性を損なう罪」を口にして教皇庁内紛に警告した。その数日後には、空席になっていた「バチカン銀行」(公式名は「宗教事業協会」)の総裁に、ドイツ人実業家エルンスト・フォン・フライベルクを任命した。ほぼ六百年ぶりに自発的に退位した法王は、最後の瞬間まで、その一挙一動が「教皇庁の暗闘」に結びつけられた。
「在位中の約八年間、闇の枢機卿のイメージをぬぐえなかった。『学者法王』という看板を掲げても、信徒を奮い立たせる器ではなかった」と、イタリアの外交筋は言う。
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