危険な「親中派」政財界人
尖閣を奪われかねない「妄言」を連発
2012年11月号公開
持久戦は隙を見せた方が負けだ。打撃を与えるより、ミスをしないことが重要である。その基本的な戦い方を知らない親中派の言動が、小さな島々にとどまらず、日本の未来に影を投げかけている。
日本政府が国有化して二カ月が経つ、沖縄県の尖閣諸島を巡る問題のことである。この間、領有権を主張する中国はあらゆる手で日本に嫌がらせを続け、尖閣諸島周辺海域では飽くなき領海侵犯を繰り返し、海上保安庁は疲弊の度合いを増している。まさに持久戦の様相を呈する対立の中、日本の政界で、中国につけ込む隙を与える言動が目立ち始めた。
例えば、日中友好七団体の筆頭組織、日本中国友好協会の会長を務める加藤紘一・元自民党幹事長である。加藤は同協会が発行する新聞「日本と中国」の十月十五日号に、日中友好四十周年の節目に交流の途絶が起きたことを嘆く一文を掲載し、次のように主張した。
「これまで我が国政府がとってきた『尖閣諸島をめぐって領土問題はない』という主張は、現実問題として、もはや国際的には説得力を持ちませんし、日中関係の改善にもつながらない。現状を打開して円満な交流を可能にしていくために、新たな意欲を持って両国関係者が話し合いを真摯に行うよう要請するものであります」
同様の主張を真っ先に唱えたのは、日本共産党の志位和夫委員長だ。一九七二年の日中共同声明の署名の際、尖閣諸島の領有権を詰めなかったことが誤りだったとして、日本は正面から堂々と議論を提起すべきだとの内容だ。政権への影響力が限定的な政党の主張に目くじらを立てる必要はない。しかし、政府や与党の要職を歴任し、現在の与党である民主党にもパイプがあり、日中関係では自他ともに認める第一人者の加藤の言葉は、一部メディアや評論家、学者の意見とは比較にならないほど重い。中国は国際社会でその立場を訴える格好の材料を手に入れた。
同じ七団体でも、日中友好議員連盟会長の高村正彦・自民党副総裁は、外相経験を持つだけに慎重だった。十月十七日の記者会見で「『領土問題は存在しない』というのは、領有権の主張に自信を持ち、現に実効支配している国の国際的常套句みたいなものだ。中国から圧力がかかる中、これを変えることは、中国にも国際社会にも誤ったメッセージを与える」と語っている。ただ、親中派の政治家は、中国側の主張に理解を示したがる傾向があり、高村のような自制的な態度は、むしろ例外だ。野田佳彦内閣にも、親中派の女王、田中眞紀子・文部科学大臣がいる。政権内から加藤の主張への同調者が登場する懸念は常につきまとう。
「尖閣を領土問題と認めることで中国側と議論できる」とか、「日本が国際司法裁判所に提訴すれば、中国が応訴しても勝てるし、応訴しなくても中国が自らの主張に理がないことを認めたことになるから得策だ」という考え方は、中国の意図を見誤っている。中国とて直ちに領有権を得られるなどとは考えていない。日本が二国間の領土問題の存在を認定した瞬間、中国はこれを奇貨として「共同管理」を提案してくる。四十年前に中国側が提起し、日本側はあいまいな態度で応じた領有権の「棚上げ」を、「正式な合意」とするのが中国の思惑である。共同管理が始まれば、中国は「ごね得戦術」で権益や支配の比率を徐々に高め、最後には実効支配し、日本を排除するというわけだ。何十年かかることも厭わない手法に対し、政権が頻繁に代わる不安定な日本政治では、対抗するエネルギーを持続できない。一度、成功体験を与えてしまえば、最近広まっている「沖縄県も中国の領土」という荒唐無稽な主張にも勢いを与えかねない。だからこそ今、中国に「入り口」を与えないことが肝要なのだ。
残念なことに、政界だけでなく、経済界のリーダーからも、中国の術中にはまった近視眼的な主張が出ている。米倉弘昌・日本経団連会長のことである。
政治で対立しても経済の結びつきは揺るがないという「政冷経熱」は、日中関係のスタビライザーの役目を果たしてきた。それゆえ、財界幹部の影響力は、政治家と遜色ないほど強い。だからといって、国益を巡り、政界と経済界の立場が異なっていいはずがない。国益を踏まえたうえでアプローチが違ってもいいということである。尖閣問題では、国民が一致して、冷静に粘り強く、中国の圧力をはね返す必要があるのに、中国での日本企業の活動や対中輸出などが深刻な打撃を受けていることに、財界トップが耐えきれなくなった。
九月二十七日に野田総理大臣が国連総会演説で、尖閣諸島に関して日本が一歩も譲歩しないと明言すると、北京を訪問中だった米倉は「自分たちに問題がなくても、相手が問題だと言っていることを解決するのがトップの役割だ。そのようなことは言ってもらいたくない」と批判した。十月九日の定例記者会見では、尖閣諸島を巡る日中対立に関し、「経済界は困惑している。日本サイドの行動で引き起こされたことは非常に遺憾だ」とも語った。中国の作った「土俵」に乗りましょうと言わんばかりの米倉の主張は、危うい。
米倉の出身企業である住友化学は二〇一一年八月、石油化学製品や農業関連製品などの中国での製造、販売を強化するため、北京に「住友化学投資有限公司」を設立したばかりだ。中国戦略推進の拠点としての「住友化学投資」など、現地での関連会社は二十以上にのぼり、北京のほか、大連、香港、上海、深?など各都市に展開している。「日中関係の悪化が住友化学の業績に影響を与えることが、米倉にとって最大のプレッシャー」と言われる所以だ。
経団連は個々の企業の利害を超えて、日本全体の成長や国益を考えて行動する団体だったはずだ。一企業の損益を心配する経営者のような姿勢で、闘うべき相手を自陣に手引きする財界トップに、経済界からも失望の声が漏れる。
中国のネット世論を見れば、中国人の多くは、尖閣諸島を中国が実効支配していると思い込んでいることが分かる。中国の官製メディアが、島根県竹島に韓国の李明博大統領が上陸したことを積極的に報じなかったのも、中国世論が「尖閣諸島に胡錦濤国家主席が行かないのはなぜか」と騒ぎだすことを懸念したからだと言われる。過激な要求に応えられず、批判の矛先が中国政府に向かうことを避けたかったのだ。中国共産党が最も恐れるのは、「正確な情報」が人民に浸透していくことだ。
粘り強く取り組む「利」は日本にある。政治家や財界人の木を見て森を見ない利己的な言動は、その「利」を損ない、日本が中国の属国になるという悪夢のシナリオの扉を開けかねない。
(敬称略)
日本政府が国有化して二カ月が経つ、沖縄県の尖閣諸島を巡る問題のことである。この間、領有権を主張する中国はあらゆる手で日本に嫌がらせを続け、尖閣諸島周辺海域では飽くなき領海侵犯を繰り返し、海上保安庁は疲弊の度合いを増している。まさに持久戦の様相を呈する対立の中、日本の政界で、中国につけ込む隙を与える言動が目立ち始めた。
格好の材料を手に入れた中国
例えば、日中友好七団体の筆頭組織、日本中国友好協会の会長を務める加藤紘一・元自民党幹事長である。加藤は同協会が発行する新聞「日本と中国」の十月十五日号に、日中友好四十周年の節目に交流の途絶が起きたことを嘆く一文を掲載し、次のように主張した。
「これまで我が国政府がとってきた『尖閣諸島をめぐって領土問題はない』という主張は、現実問題として、もはや国際的には説得力を持ちませんし、日中関係の改善にもつながらない。現状を打開して円満な交流を可能にしていくために、新たな意欲を持って両国関係者が話し合いを真摯に行うよう要請するものであります」
同様の主張を真っ先に唱えたのは、日本共産党の志位和夫委員長だ。一九七二年の日中共同声明の署名の際、尖閣諸島の領有権を詰めなかったことが誤りだったとして、日本は正面から堂々と議論を提起すべきだとの内容だ。政権への影響力が限定的な政党の主張に目くじらを立てる必要はない。しかし、政府や与党の要職を歴任し、現在の与党である民主党にもパイプがあり、日中関係では自他ともに認める第一人者の加藤の言葉は、一部メディアや評論家、学者の意見とは比較にならないほど重い。中国は国際社会でその立場を訴える格好の材料を手に入れた。
同じ七団体でも、日中友好議員連盟会長の高村正彦・自民党副総裁は、外相経験を持つだけに慎重だった。十月十七日の記者会見で「『領土問題は存在しない』というのは、領有権の主張に自信を持ち、現に実効支配している国の国際的常套句みたいなものだ。中国から圧力がかかる中、これを変えることは、中国にも国際社会にも誤ったメッセージを与える」と語っている。ただ、親中派の政治家は、中国側の主張に理解を示したがる傾向があり、高村のような自制的な態度は、むしろ例外だ。野田佳彦内閣にも、親中派の女王、田中眞紀子・文部科学大臣がいる。政権内から加藤の主張への同調者が登場する懸念は常につきまとう。
「尖閣を領土問題と認めることで中国側と議論できる」とか、「日本が国際司法裁判所に提訴すれば、中国が応訴しても勝てるし、応訴しなくても中国が自らの主張に理がないことを認めたことになるから得策だ」という考え方は、中国の意図を見誤っている。中国とて直ちに領有権を得られるなどとは考えていない。日本が二国間の領土問題の存在を認定した瞬間、中国はこれを奇貨として「共同管理」を提案してくる。四十年前に中国側が提起し、日本側はあいまいな態度で応じた領有権の「棚上げ」を、「正式な合意」とするのが中国の思惑である。共同管理が始まれば、中国は「ごね得戦術」で権益や支配の比率を徐々に高め、最後には実効支配し、日本を排除するというわけだ。何十年かかることも厭わない手法に対し、政権が頻繁に代わる不安定な日本政治では、対抗するエネルギーを持続できない。一度、成功体験を与えてしまえば、最近広まっている「沖縄県も中国の領土」という荒唐無稽な主張にも勢いを与えかねない。だからこそ今、中国に「入り口」を与えないことが肝要なのだ。
エゴ丸出しの米倉経団連会長
残念なことに、政界だけでなく、経済界のリーダーからも、中国の術中にはまった近視眼的な主張が出ている。米倉弘昌・日本経団連会長のことである。
政治で対立しても経済の結びつきは揺るがないという「政冷経熱」は、日中関係のスタビライザーの役目を果たしてきた。それゆえ、財界幹部の影響力は、政治家と遜色ないほど強い。だからといって、国益を巡り、政界と経済界の立場が異なっていいはずがない。国益を踏まえたうえでアプローチが違ってもいいということである。尖閣問題では、国民が一致して、冷静に粘り強く、中国の圧力をはね返す必要があるのに、中国での日本企業の活動や対中輸出などが深刻な打撃を受けていることに、財界トップが耐えきれなくなった。
九月二十七日に野田総理大臣が国連総会演説で、尖閣諸島に関して日本が一歩も譲歩しないと明言すると、北京を訪問中だった米倉は「自分たちに問題がなくても、相手が問題だと言っていることを解決するのがトップの役割だ。そのようなことは言ってもらいたくない」と批判した。十月九日の定例記者会見では、尖閣諸島を巡る日中対立に関し、「経済界は困惑している。日本サイドの行動で引き起こされたことは非常に遺憾だ」とも語った。中国の作った「土俵」に乗りましょうと言わんばかりの米倉の主張は、危うい。
米倉の出身企業である住友化学は二〇一一年八月、石油化学製品や農業関連製品などの中国での製造、販売を強化するため、北京に「住友化学投資有限公司」を設立したばかりだ。中国戦略推進の拠点としての「住友化学投資」など、現地での関連会社は二十以上にのぼり、北京のほか、大連、香港、上海、深?など各都市に展開している。「日中関係の悪化が住友化学の業績に影響を与えることが、米倉にとって最大のプレッシャー」と言われる所以だ。
経団連は個々の企業の利害を超えて、日本全体の成長や国益を考えて行動する団体だったはずだ。一企業の損益を心配する経営者のような姿勢で、闘うべき相手を自陣に手引きする財界トップに、経済界からも失望の声が漏れる。
中国のネット世論を見れば、中国人の多くは、尖閣諸島を中国が実効支配していると思い込んでいることが分かる。中国の官製メディアが、島根県竹島に韓国の李明博大統領が上陸したことを積極的に報じなかったのも、中国世論が「尖閣諸島に胡錦濤国家主席が行かないのはなぜか」と騒ぎだすことを懸念したからだと言われる。過激な要求に応えられず、批判の矛先が中国政府に向かうことを避けたかったのだ。中国共産党が最も恐れるのは、「正確な情報」が人民に浸透していくことだ。
粘り強く取り組む「利」は日本にある。政治家や財界人の木を見て森を見ない利己的な言動は、その「利」を損ない、日本が中国の属国になるという悪夢のシナリオの扉を開けかねない。
(敬称略)
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