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社会・文化

旭川に「サケ」が大量遡上

産卵できるかどうかが問題

2012年10月号

 秋の石狩川。澄明な水の中に大きな魚がゆらゆらと揺れ、流れに逆らってとどまっている。シロザケ、あるいは単にサケ。  ぴんと立った背びれ、尾びれ、左右に張り出した胸びれは白くすり切れ、皮膚も傷ついているが、大きな眼は力強さを失ってはいない。彼らは四年の歳月を経て、数千キロの海原を泳ぎ、河口から百五十キロをさかのぼった上流、旭川市に帰ってきた。  石狩川上流にある旭川には今年、二千尾を超すシロザケが遡上すると予測されている。JR駅のすぐ裏で、神社前の橋の下で、サケの遡上と産卵行動を、たやすく見ることができる。人口三十五万の都市の真ん中で、これはなかなかの光景だ。一千尾単位の遡上は実に半世紀ぶりだという。石狩川で何が起きているのか。

矛盾を抱えた試み

 シロザケはかつて、北日本の多くの川に遡上・産卵をしていた。中でも石狩川は、恵み豊かな母なる川として、多くのサケを産出した。飢饉の年には、オホーツク沿岸や道東からも、多くのアイヌ人が山を越え来て飢えをしのいだと伝説にある。  幕末の記録から、上川アイヌは七十戸ほどのコタン(集落)で数十万・・・