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社会・文化

秋の「彩り」という奇跡

北国の山岳紅葉への招待

2012年9月号

 日本の秋は、山から下りてくる。高地から里に向かう紅葉前線の先触れを務めるのは、赤トンボの群れ。アキアカネと呼ばれ、国内どこででも見かけるが、大陸とは異なる日本固有種のトンボだ。  夏も真っ盛り、北海道ではエゾゼミの声がうるさいほど降り注ぐ山奥で、アザミのてっぺんに、トンボの光る羽を見つけることがある。  一匹見つけると目が慣れるのか、草の葉末に、石の上に、静かに休んでいる姿が見えてくる。  夏休み中の大雪山では、標高一千五百メートル前後の高地でも、晴れた日にハイマツ帯の上を飛び交うアキアカネを見ることができる。

豪壮な「スケール」

 そんな夏山の記憶が薄れないうち、ずっと標高の低い人里のあちこちで、透明な羽のきらめきが現れはじめる。  南北に細長い日本列島。アキアカネが平地に下りてくるのは、北海道ではお盆過ぎの八月半ばだが、東北では八月下旬。中部・関東は九月に入り、九州・四国では九月下旬になる。  朝夕冷え込み始めたころ、何気なく歩く里の道で、日の当たる地面に羽を休めていた赤トンボを一斉に飛び立たせてしまい、な・・・