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連載

皇室の風49

問い直される天皇葬送儀礼
岩井克己

2012年9月号

殯は、死者の甦りを願って、すぐには埋葬せず腐敗が進むまで魂振りの儀礼を重ねる日本古来の葬礼であり、古くは『魏志倭人伝』にも記されている。

「其死有棺無槨。封土作?。始死停喪十余日。当時不食肉。喪主哭泣。他人就歌舞飲酒」
 また『隋書倭国伝』にも「貴人三年殯於外」とある。

 記紀神話でイザナギが亡き妻イザナミを黄泉国に訪ね、蛆にたかられた姿に驚いて逃げ帰る説話などに反映しているとされる。
 安閑・宣化朝から王権の威信を示すものとして盛大となり、誄を奉り、日嗣(皇統譜)を読み上げ、諡号を献呈するようになった。柿本人麻呂らによる殯宮挽歌も万葉集に多く収録されている。

「殯はわが国固有の葬法が、帰化人の大規模な渡来によって、礼の一つたる殯の影響を受け、儀礼化し、一般に行われたものである。それに比し、誄は(略)わが国固有の葬法には存在しなかった儀礼であり、殯の儀礼とともに導入され、天皇・皇后などの殯に行われたものである。誄儀礼は敏達天皇の殯宮においてなされたのが記録上では初見であるが、実際は安閑朝末年ごろから行・・・