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社会・文化

日本人にとっての「マッキンリー」

「凍る魔の山」に惹かれる理由

2012年8月号

 巨大な白い舌―。  アラスカ山脈の中にある北米大陸最高峰、マッキンリー(六千百九十四メートル)で起きた雪崩の写真は、そんなふうに見える。その下には四人の遺体が眠る。  六月十三日、午前二時十分(現地時間)。マッキンリーの約三千六百メートル地点で、下山中だった日本人五人のパーティーが雪崩に巻き込まれた。一人は自力で脱出したが、残り四人は発見されぬまま捜索は打ち切られた。 「不運」という報道に終始した事故だった。だがマッキンリーに二十二回登頂している登山家、大蔵喜福は「人災」の可能性を指摘する。今回、雪崩が起きた地点では、これまで自然発生的な雪崩は確認されたことがないからだ。 「この地点は、左側を真っ直ぐに降下するのが正しい。でも、三十度ほどの傾斜があり、高度差は二百メートルもある。だから、真っ直ぐ下りるのがしんどい。彼ら五人は相当疲れていたようなので、蛇行したのではないでしょうか。雪の層に横に線を入れたら、歩いている内に雪が落ちてくる。雪の本質を理解している人間なら、そんな失敗は絶対に犯さない。実は、僕も同じ地点で雪崩に遭ったことがあるのですが、それは先行してい・・・

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