「技術者流出」で滅びゆく日本企業
「ヒト」を粗末にする経営者の愚
2012年8月号
「我々が(技術面で)先生だった時代はもう終わって、最近は兄弟のような関係。ポスコの方が先を行っている分野もありますよ」。数年前、新日本製鐵の三村明夫会長が韓国の製鉄大手、ポスコとの関係について記者懇談でこう語ったことがある。謙遜もあったにせよ、技術面でのポスコの進化を素直に認めていたのが大物経営者らしい余裕を示していた。だが、ポスコの進化の多くが自社からの技術流出によるものだったとしたら、こんな悠長なことは言っていられないだろう。
実際、新日鐵はポスコが「(トランスなどに使う)方向性電磁鋼板の技術を不正取得した」として不正競争防止法に基づいて東京地方裁判所で民事訴訟を起こした。日本の産業界が韓国、中国、台湾の三カ国・地域の企業に対して抱いていた積年の不信感を表明するものだった。多くの日本メーカーは原因はわからないものの自社技術が韓国、中国メーカーなどに漏れているという実感を持っていたからだ。