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政治

《罪深きはこの官僚》横畠裕介(内閣法制局内閣法制次長)

「憲法の番人」 復活を画策する次期長官

2012年8月号公開

 首相官邸と内閣法制局の主導権争いという、「古くて新しい」対立が勃発した。国連平和維持活動(PKO)協力法の改正を目指す野田内閣に対し、法制局がこれに抵抗している。その司令塔であり、完全なるサボタージュを主導したのが法制次長の横畠裕介だ。

 野田内閣が目指すのはいわゆる「駆けつけ警護」を可能にするための法的整備。攻撃に晒された他国軍や非政府組織(NGO)などを自衛隊が援護・救出するためのものだ。これまで政府は憲法解釈で禁じている海外での武力行使に繫がる恐れがあるとして認めてこなかったが、自らが攻撃を受けなければ「見殺し」にする国際的に非常識な代物で、自民党時代から課題となってきたことは周知の通り。

 官房長官の藤村修は、首相・野田佳彦の指示の下、防衛大臣の森本敏や外務大臣の玄葉光一郎と調整を重ね、七月五日には非公式の三閣僚会合で、受け入れ国が自国の警察に認めている範囲内での武器使用を認めることで合意した。実はこの時点では法制局側も「一定の条件下であれば駆けつけ警護は可能」と渋々認めていた。

 ところが、法制局は国会会期末までの時間稼ぎを始める。この案件が法制局で滞留していたことは既に報じられているが、法案の検討などの手続きは一切おこなわれていなかった。完全に放置して時間切れを狙っていたのだ。七月上旬、横畠が藤村と協議した際、横畠はあろうことか「首相や官房長官の指示は正式に受けていない」と言い出した。政府関係者の一人は「首相肝煎り案件の指示書が届かないことなどありえない」と語る。業を煮やした藤村がその場で首相の指示書を示すと今度は、「内部の行き違いで私の元に届いていなかった」と子供のような言い訳を始めたのだ。

 横畠の抵抗はこれにとどまらない。藤村が内閣、防衛、外務の三府省と法制局の局長級協議を始めるよう求めたところ、横畠は局長級を課長級に格下げすることを主張したのだ。駆けつけ警護を握りつぶすためになり振り構わない。

 横畠は検事出身で一九九九年八月に法制局に出向、総務主幹、第二部長を歴任し、「次の法制局長官が確実視されたエース」(法制局関係者)だ。過去にも、安倍晋三内閣が集団的自衛権の行使容認を目指して懇談会を設置した際、第二部長だった横畠は、当時の法制局長官の宮㟢礼壹とともに「強引に推し進めれば辞表を出す」と迫った過去がある。

 なぜここまでかたくなに抵抗するのか。法制局関係者の一人は「法制局の人間にとって、一番大事なのは、過去の政府解釈をできるだけ傷つけず次に引き継ぐこと。これができなければ出世の目はない」と解説する。

 二〇〇九年の政権交代後、民主党政権は法制局長官を「政府特別補佐人」から外し、法令解釈の答弁は官房長官らが担当してきた。しかし、官僚との良好な関係構築に腐心する野田内閣は今年二月から山本庸幸長官の答弁を復活させている。

 今回の官邸と法制局の対立は、「憲法の番人」と呼ばれた法制局復活を完全に印象づけるためには格好の材料。「このままでは過去のように法制局が聖域になりかねない」(自民党閣僚経験者)との懸念も出ている。海外派遣、武力行使の是非以前に、自らの出世のために前例墨守で思考しない役人をのさばらせてはならない。(敬称略)


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