奇跡のボクサー「パッキャオ」
国会議員をやりながら「十階級制覇」
2012年7月号
どんなに偉大な王者も敗れる日は来る。この世の常だ。ただこの日の光景は、あまりに異様だった。
六月九日、米ネバダ州ラスベガスで行われたWBO世界ウェルター級タイトルマッチで、史上二人目の六階級制覇を成し遂げた最強王者マニー・パッキャオが判定で七年ぶりに敗れた。しかし、挑戦者のティモシー・ブラッドリーの勝利が宣言されると、会場は観客によるブーイングに包まれた。
試合は明らかに、パッキャオの優勢で進んだ。手数で優り、ストレートをクリーンヒットさせた。終盤に失速したことは事実だが、会場にいるほぼ全員が―恐らくブラッドリーでさえ―パッキャオの勝利を信じて疑わぬ中で、二人のジャッジだけが例外だった。
試合後のパッキャオは「いい戦いができた」とさらりとコメントしたが、ファンやメディアの不満は収まらない。これを受けてWBOは、六月二十日に国際ジャッジ五人による検証を行い、結果は五人ともがパッキャオの優勢だった。しかし判定を覆すことはできず、両者に再戦を促すに留まっている。