イラク北部のクルド人自治区が独立に向けて動き始めた。石油資源とトルコ向けパイプラインが切り札で、向こう数年でリビアを凌ぐ「大産油国」になるとの見通しもある。マリキ首相が強権手法を強める中、自治政府は独自の内政と外交に突っ走っており、「国を持たない世界最大の民族」は中東地殻変動の軸になりそうだ。
武力は史上最強水準
自治政府の自信は今春、一段と高まった。自治政府のマスード・バルザニ大統領が四月、ホワイトハウスを訪れ、オバマ、バイデン正副大統領と会談した。バルザニ氏はトルコ訪問でも国賓並みの歓迎を受けた。トルコは五月、クルド人自治区から直接石油を輸入するため、休眠状態のパイプラインを使用することを持ちかけ、自治政府から合意を得た。
マリキ首相は間髪入れずにトルコに警告し、「中央政府の許可なく、自治政府と合意は結べない」と通告した。マリキ政権は昨年、スーパーメジャーのエクソンモービルが自治政府と契約を結んだ際、「イラクでの事業を禁止する」と威嚇して破棄を迫ったばかり。この時にはアメリカ政府も、「イラク政府の許可なしに、契約を結ぶことはできな・・・