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連載

追想 バテレンの世紀 連載75

メキシコ通商への意欲
渡辺 京二

2012年6月号

 スペイン・ポルトガルの航海者の間には、日本の東方海上に金銀の溢れた島があるという噂が広まっていた。ヌエバ・エスパニア(メキシコ)では、この金銀島探索のために船を出そうという機運が高まり、セバスティアン・ビスカイノが司令官に指名されたが、この際ロドリゴ送還の件につき、日本政府に答礼する任にも当たらせることになった。ロドリゴに伴って来た田中勝介以下の日本商人を送り帰す必要もあった。

 田中たちは日本で建造されたブエナ・ベントゥーラ号でやって来たのだから、送還にもその船を使えばよさそうなものなのに、メキシコ政庁はそれを買い上げ、ビスカイノと田中たちのためには、サン・フランシスコ号という船を用意した。おそらく日本船籍の船が太平洋横断に継続的に用いられることを危懼したのだろう。日本人に航海技術を学ばせたくないのだ。ビスカイノにはブエナ・ベントゥーラの買上げ代金と、ロドリゴが家康から借りた金をとどける任もあった。

 サン・フランシスコ号は一六一一年三月出帆、六月浦賀に入った。早速将軍秀忠を訪問。ロドリゴ同様江戸城の豪華に感銘を受けたが、謁見に当たっては・・・