「シーア派独裁」が進むイラク
中東に深まる「宗派対立」の危険
2012年6月号
中東で拡大した民主化要求運動「アラブの春」に逆行している国がある。米国主導の?外圧?で民主化に先んじたはずのイラクだ。マリキ首相は、権力の分散を図った他党との連立条件を無視して治安権限を一手に握り、政敵を追いやって、着実に独裁路線を歩んでいる。
首相は隣国シリアで吹き荒れる「春」の嵐の波及を警戒しているともいわれ、自身の出身母体であるイスラム教シーア派の大国イランに接近。イラン、シリア、レバノン南部のヒズボラという「同盟ライン」にイラクが加われば、スンニ派のサウジアラビアや、クルド問題でイラクと摩擦を抱えるトルコは黙っていられない。イラクがまたも、中東を揺るがす震源になりつつある。
「もはやイラク情勢に政治解決の望みは存在しない」。ハシミ副大統領が五月上旬、滞在先のトルコのイスタンブールで、自国の現状を報道陣にぶちまけた。旧フセイン政権時代の支配勢力であるスンニ派出身の副大統領は、イラク駐留米軍が撤退した昨年十二月、自国当局者の暗殺を指示した容疑をかけられ、今は「逃亡生活」の身だ。