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社会・文化

胎動しはじめた「震災文学」

後世に何を残せるのか

2012年3月号

東日本大震災に見舞われて一年。文学の世界もまた、大震災の影響を避けては通れなかった。もちろん文学には水や食料のように喫緊の必要性もなければ、医薬品のように即効性もない。それでは文学を取り巻くこの一年はどのようなものだったのか。  大震災が起きた当初、小説は売れなかった。虚構をはるかに凌ぐ現実の悲劇にたじろぎ、小説を手に取る余裕が失われたのだ。紙不足、東北地方を中心とした道路の寸断、ガソリン不足などもあって一時は本全体の売れ行きが下がった。  しかし被害の大きさや、その後に続く原子力発電所の事故を知らせる膨大な情報にさらされ続け、人々の心は悲鳴をあげていた。その時求めたものは何だったか、振り返ってみたい。

まずは物語より「ことば」

 三月二十七日、詩の朗読会「ことばのポトラック」が東京で催された。作家の大竹昭子氏が、大震災を前にして無力感にさいなまれながらも、何かをしなければと十人ほどの詩人や作家らに声をかけて開催した緊急のイベントだった。そこに足を運んだ人々は一様に驚きの声をあげた。乾いた地面に水がしみこむように、現代詩や短歌の「こと・・・