不運の名選手たち27
金子祐介(スキージャンプ選手) 記憶をなくしたジャンパー
中村計
2012年3月号
新しい三つのビンディング(靴にスキーを装着する金具)。その中で、金子祐介が手に取ったのは「いちばん真っ直ぐで、歪みのないもの」だった。
二〇〇五年十一月二十七日。フィンランド北部、「サンタクロース村」で有名なロヴァニエミという町のスキージャンプ台で行われた合宿の初日の出来事だった。フライト中、あろうことか、そのビンディングからスキーが外れた。
「ねじれが少ないぶん(スキーも)外れやすかったんでしょうね。チーム最年長の自分が優先的にビンディングを選ぶ権利があった。だから、不良品だったのですが自分で選んだ結果でもあるんです」
片方の翼を失い、あごからアイスバーンに叩きつけられた金子は、目から下の顔面の骨をほとんど砕かれ、赤黒く染まった雪の中で白目を剥いたまま失神していた。
「そのとき、呼吸も止まってたそうなんです。でもトレーナーが駆けつけて、すぐに人工呼吸をしてくれた。普通、着地場所に人なんていないんですけど偶然いたんです。いなかったら、病・・・