電子書籍の普及にともない、著作権の問題が厳しく論じられるようになってきた。筆者も最近、重版を続けているある著書の再利用に関して出版社と新しい契約を取り交わしたところである。

　筆者も長い間研究を生業としてきたので著作権の問題にはよく直面させられたし、著作権意識の時代による移り変わりに驚きも感じている。筆者が大学の医学部を卒業したのは一九六五年のことであり、その後一年間のインターンをふくめ七年間大学の医局での修業期間を経験した。筆者はその頃、心臓病の診断と治療の書物を何冊も読む必要に迫られた。まだ日本語版の良書は少なく、英語の書物を購入せざるを得なかったのであるが、一ドル三百六十円の時代の洋書の価格は、無給医局員の懐にずしりとこたえた。

　しかし、実際に購入していたのは、ひそかに持ち込まれたいわゆる海賊版であり、完全に著作権を侵すものであった。著者たち若い医局員にまったく罪の意識はなく、少し印刷は悪いが安価な原書のコピーを入・・・