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連載

不運の名選手たち26

谷口浩美(マラソン選手) こけたバルセロナで見えた「光」
中村計

2012年2月号

 

 単なる状況説明だったと言う。

 一九九二年、バルセロナ五輪。大会最終日の男子マラソンで、谷口浩美は、二十二・五キロ地点の給水所で転倒する。厳密に言えば、偶然とはいえ、転ばされたのだ。

 その後、猛烈な追い上げを見せたものの、結局八位でゴール。そして、あの名言が生まれた。

「こけちゃいました……」 

 レース終了後、ミックスゾーンに現れた谷口は、開口一番、そう言ったのだ。しかも、満面に笑みをたたえながら。

 あの状況で、あの言葉を、あの表情で言えることが驚きだった。なんと無垢な人なのか、と。

 だが谷口は、まるで他人事のようにその時の心境を解説する。

「テレビで観ていた人は、『世界選手権で優勝してるのに、なんで八位なの?』って思ったと思う。だから、まずはそれを説明しなければと思ったんです」

 谷口は前年、東京で開催された世界陸上競技選手権大会で金メダル・・・