本に遇う 連載146
「東京物語」への冒涜
河谷史夫
2012年2月号
いやな噂を聞いた。松竹の山田洋次監督が「東京物語」のリメークを作るというのである。
まさかと思った。山田と言えば、「寅さん」の監督ではないか。国民的などと持ち上げられ、盆暮れに必ず当たりをとって、松竹社員のボーナスは「寅さん」から出ていると耳にしたことがあった。しかし言うまでもないが、映画の価値と見物人の数との間には何の関係もない。多数派に反してわたしは「寅さん」を好かない。
あの現実にはあり得ない紙芝居に付き合う義理はないし、そもそも「寅さん」は渥美清という希代の役者をだめにした元凶だと思っている。渥美の目を見よ。渥美は平然と残忍な人殺しをする役も演じられたはずである。それを「寅さん」のイメージを壊したくないばかりに自らを封じ込め、俳優としての可能性を閉ざしてしまった。実に惜しいことであった。
これも言うまでもないが、「東京物語」は小津安二郎の最高傑作である。かつてテレビでリメークしたのを見たけど、余りに無残な出来に、目を覆った覚えがある。「東京物語」をリメークしよ・・・