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社会・文化

アラスカ三山「冬物語」

冷酷で容赦なき自然の魅力

2012年1月号

 二対八。水彩絵の具と、水を、それぐらいの割合で混ぜたようなサーモンピンク――。  米国アラスカ州のデナリ国立公園周辺の冬の山々は、午前十時ごろ、シロップをかけたかき氷さながら、まずは先っぽから色が変わり始める。それから、少しずつ、ゆっくりと、液体が降りてくるかのように、山全体が淡いサーモンピンクに染まっていくのだ。  高緯度に位置するアラスカの太陽は、冬季、地平線を転がるように移動し、三時過ぎには姿を消す。サーモンピンクの朝焼けは、そんな特殊な「ライトアップ法」と、寒冷地独特の光の屈折率が織りなす冬限定の光のショーなのだ。  ただし、曇りがちな冬のアラスカでは、実際のところ、そう頻繁に見られるシーンでもない。

植村直己が眠る山

 最後の辺境と呼ばれるアラスカは、北米最高峰のマッキンリー(六千百九十四メートル)を擁する。そのマッキンリーをはじめとするアラスカの山々の登山基地として知られるのが、人口約八百人のタルキートナという小さな町だ。  一九八四年にマッキンリーで遭難した冒険家の植村直己も、この町に滞在し、ここから軽飛行機でマッキン・・・