正論だ。

「松尾雄治は天才です。天才に後継者なんてありえない。例えば、歌手の桑田佳祐を継ぐ人なんて現れないでしょう？」

　角日出夫は、ステレオタイプな見方に反発するようにそう語る。

　角の旧姓は小林だ。小林日出夫と言えば、ピンとくるラグビーファンも多いだろう。目黒高校、明治大学で主将を務め、それぞれ日本一に導いた。大学三年生のときにオールジャパンに選出され、一九八三年の伝説のテストマッチ、ウェールズ戦では三本のキックを決めている。「レッドドラゴン」の愛称を持つ北半球の古豪に24―29と大接戦を演じた試合だ。日本ラグビーが「世界」にもっとも近づいた日と言ってもいい。

　大学卒業後は当時、六連覇中だった絶対王者、新日鐵釜石に入社。日本ラグビー界に現れた最初にして最高のスター選手、松尾雄治の後継者として期待された。だが、角は少なくともその期待に応えることはできなかった。

「松尾さんと僕は、同じ高校、同じ大学、同じ会社ではありましたけど、キ・・・