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連載

本に遇う 連載144

独裁者に定年はない
河谷史夫

2011年12月号

 読売新聞にあって冷や飯組の友と呑んでいた。エジプトのムバラク政権が崩壊し、リビアのカダフィ大佐が倒れ、と中東の「革命の嵐」が一段落したころであった。

 いよいよ独裁体制で生き残っているのは、世界に北朝鮮だけか、と言ったら、「いいや、まだある」と、そいつがえらく暗い顔をする。

 ああ、そう言えば、と「文藝春秋」六月号に、読売新聞グループの渡邉恒雄会長兼主筆の文章が載っていたことを教えてやった。

「不離一体の仲」だったという氏家齊一郎日本テレビ会長の死を悼むもので、「旧制東京高校、東大、共産党体験を経て、読売に入社、ついに彼はNTVの会長、私は読売新聞の会長と、いわばマスコミの頂点に登りつめた」と、お互い仲が良く、協力して派閥抗争を勝ち抜き、そして立身出世を遂げたことを自賛したうえ、自分は
「息絶えるまで経営の鬼となろうと覚悟している」と結んでいた。

 独裁者に定年はない。死ぬまでやるつもりらしい。そう告げると、「ええ? そうか」と、友は気の抜けたふうになり、呑むほどに酔うほどに、いっそう沈・・・