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社会・文化

「熊撃ち」がいなくなった

「公的ハンター」の養成が必要

2011年11月号

 心臓の鼓動が聞こえるほどの静寂。わずかな風のそよぎ。足元から伝わる寒気。手にした銃の重さと冷たさ。  やがて、ひそやかな気配とともに、かすかな足音が聞こえ、黒い塊が姿を現す。クマだ。障害物を避け、距離を読み、確実に急所をとらえられる瞬間を待つ。息を整え、静かに引き金を絞る。激しい衝撃音は、あたりを一変させ、森は修羅の場となる。獲物は逃げるのか、打ち倒せたのか、それとも向かってくるのか。緊張が走る。  倒れた生き物の体からは熱い湯気が立ちのぼり、獲物はふう、と最期の息を吐き出して、四肢の力が抜けてゆく。黒い瞳孔がみるみる開き、目はたちまちに光を失う。

変化したクマの行動

 こうした、ヒグマやツキノワグマと一対一で勝負する「熊撃ち」は日本にどれほど残っているだろうか。高齢化してクマよりも先に絶滅に近づき、技術を受け継ぐ者も数少ない。  熊撃ちは昔から、ハンターの中でも別格だ。数が少なく用心深い大型獣を粘り強く追い、足跡や痕跡を読みとり、行動を予測し、最良の射点に自分を持っていく。逆襲のおそれさえある相手との間合いを詰め、正確な一撃を放つ。体力と・・・