不運の名選手たち 23
桜井孝雄(プロボクサー) 王者になれなかった金メダリスト
中村計
2011年11月号
随分な書かれようである。
「安全運転」「アマチュア臭い」「弱腰」「逃げのボクシング」
桜井孝雄の記事を読むと、必ず一度はそんな言葉に出くわす。まるで臆病者呼ばわりだ。
だから、そのことについてどう聞くべきか少し迷っていた。が、
「KOしてやろうと思ったことはないのですか」とやんわり水を向けると、スラスラと語り始めた。
「たまにな。でも、あんまりやる気はない。だから人気なくなる。安全運転とか書かれて。性格出るよな、ボクシングは。相手が格下だったら行けるけど、強かったら行けないよ。打ちにいったら打たれるんだから」
おおよそボクサーらしからぬ発言に、思わず噴き出しかけた。自分でも世評を全面的に肯定しているようだった。
ロマンスグレーの髪を軽く後ろに撫で付け、第一ボタンまで留めたグレーのスタンドカラーシャツをまとった桜井は、リングの中よりも、喫茶店かバーのカウンターの方がはるかに似合いそう・・・