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連載

皇室の風39

古事記の狙い
岩井克己

2011年11月号

 


「豊かな人間性に裏づけられた、天才的な頭脳の産物」と、『古事記』の解読に格闘した多くの専門家、識者は驚嘆する。

「高度に政治的な理念に基づき、高度に世界観的構想をもち、高度に文芸的な表象によった、一箇の・神話・と・歴史的物語・との有機的な複合統一の作品」(川副武胤『古事記の世界』)

「日本の政治思想史を彩る諸作品の中で、これほどまでに論理的に構築され、言葉の美しい響き合いの秩序として彫琢された作品を、私は知らない」(水林彪『記紀神話と王権の祭り』)

 青山学院大学教授矢嶋泉は「徹底した〈理〉の書である。(略)仕かけは全巻にわたって縦横に張りめぐらされており、そのうちもっとも露骨な仕かけが皇祖神天照大御神といえようか。このように透徹した論理性に貫かれた書物は、古典はもちろん、近現代に書かれた読み物をも含めてもほとんど類例がなく、それが『古事記』の魅力となっている」(『古事記の歴史意識』)という。

 溝口睦子(元十文字学園女子大学教授)は、『古事記』というテ・・・