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WORLD

《世界のキーパーソン》マリオ・ドラギ (欧州中央銀行新総裁)

2011年11月号

欧州中央銀行(ECB)次期総裁の最有力候補に躍り出た今春、ドイツの大衆紙「ビルト」が、ドラギの頭にプロイセン風のヘルメットをかぶせた合成写真を掲載した。「この人物は、あまりにドイツ人的である。名誉ドイツ人の称号を与えよう」。ドイツ国民の本音を遠慮なく、しばしば口汚く叫ぶ同紙が、「彼なら大丈夫」と太鼓判を捺した。ダークスーツにパリパリのワイシャツ、魅力的な笑顔から出てくる言葉は思慮に富み、重々しく、「本当にイタリア人なのか」との疑問が出ても不思議はない。  

 ドイツ人に限らず、国際金融界では、イタリア人は概して不評だ。旧通貨リラ時代の大混乱と年率一〇%超のインフレは今も記憶に生々しい。ECB総裁のポストが十三年前に誕生して以来、財政規律の悪い南欧(イタリアやスペイン)から、ユーロの番人を出すことは、ほとんど考慮されなかった。同じビルト紙の表現を借りれば、「イタリアにとってインフレは、パスタとトマトソースのように切り離せない」からだ。今回も、大本命だったアクセル・ヴェーバー前ドイツ連邦銀行総裁の辞退があればこそ、ようやくイタリア人総裁が実現した。

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