皇室の風37
アマテラスの「誕生」
岩井克己
2011年9月号
天孫降臨神話は朝鮮半島や北方騎馬民族の王権神話に由来するものであり、皇室の祖先神はもともとはタカミムスヒだった。しかし、律令国家の成立と時を同じくして、弥生に遡る土着の太陽神アマテラスオオミカミへと移行した。それは天武天皇の深謀遠慮だった―。
天皇家の祖先神や王権神話について根底から学問的に問い直し、大胆な仮説と周到な証明を試みたのが、元十文字学園女子大学教授の溝口睦子である。長年、古代氏族の研究を積み重ね、『王権神話の二元構造―タカミムスヒとアマテラス』(二〇〇〇年、吉川弘文館)で詳細に展開した。そして、これらの研究成果をもとに、皇祖神が転換した理由と歴史的背景について一般向けにまとめたのが『アマテラスの誕生』(二〇〇九年、岩波新書)だ。
前著はつとに専門家の間で高く評価されており、筆者も驚きとともに何度か読み返していたが、一般には余り知られていなかった。しかし、新書のほうは初刷を完売し増刷したといい、・・・