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社会・文化

「電力需要ピーク」なるものの怪

原発推進正当化のための方便

2011年6月号

 迫りくる夏の電力需要の逼迫を前に、電力需要ピーク(以下、電力ピーク)をめぐる論議が喧しい。震災直後の三月中旬に、朝日新聞社内では、「夏の甲子園」を九月下旬の連休前後に移し「秋の甲子園」にすることが真剣に検討された。家庭でのエアコン電力消費が最も多い真夏の盛りに繰り広げられる全国高等学校野球選手権大会は、電力ピークを引き上げる最大の「元凶」だ。高校野球のテレビ観戦に使われる電力は、東京電力の管内だけで数十万キロワットに達し原子力発電所一基の発電量にも相当する。この大会を秋にずらすことで、大幅な電力ピークの削減を図れるのだ。逆に言えば、電力ピークなどとは、その程度のものに過ぎない他愛もないものというのも、実は一面の真理だ。
 日本では、夏の電力ピークをあたかも避けがたい所与の値としてみなし、そこに発電能力を合わせて高めるという発想を持ちがちだが、そうした形で電力ピークを論じているのは世界でも日本だけだ。電力ピーク論は、約十年前に産業構造の変化によってピーク時と通常電力の乖離が広がった際、原発推進とエネルギー消費を促進したい電力会社側が、発電能力をピーク時に合わせるよう誘導・・・