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連載

皇室の風 32

平成の「玉音放送」
岩井克己

2011年4月号

三月十一日に発生した東日本大震災は、大津波の惨害などで死者は一万名を超え、行方不明者も一万七千名を超えて、なお増え続けている(三月二十五日現在)。明治二十九年(一八九六年)の明治三陸地震の二万一千九百五十九名を上回り、明治以降では関東大震災に次ぐ。加えて福島第一原子力発電所の事故も重なって、戦後最悪の災害となった。
 天皇は三月十六日にビデオ・メッセージを発し、同日夕に一斉に全国放送された。通常の公的な儀式・行事の場での「おことば」や誕生日会見などと違って、天皇の思いを全国民に直接語りかける放送は戦後初めてだ。昭和二十年八月十五日正午から昭和天皇が「大東亜戦争終結ノ詔書」を読み上げたラジオ放送以来の「玉音放送」と言ってもいい。
 昭和の「玉音」は、ほとんどの国民が初めて聞く「統治権の総攬者の肉声」だったのに対し、平成の「象徴天皇」の映像と肉声は国民には慣れ親しんだものだ。とはいえ、昭和の「玉音放送」の四分余りを上回る五分五十六秒に及ぶビデオ・メッセージは、今回の事態を深刻な「国難」と捉えた、異例の発信である。
 肉親、財産を失い茫然とする人たちで埋まる避難・・・