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連載

追想 バテレンの世紀 連載61

宣教師の軍事計画
渡辺 京二

2011年4月号

 ここで、いわゆる「宣教師の軍事計画」なるものに触れておかねばならない。コエリュが一五八五年に、フィリピン・イエズス会宛に、四隻の軍船をフィリピン総督が日本へ派遣するよう求めたことは先に述べた。その彼が秀吉のバテレン追放に当って、同様の軍事的対応を計画したのは、極めて自然ななりゆきといってよかろう。
 一五八九年二月、彼は有馬領にフロイスなど六名の司祭を召集して協議会を開き、マカオにいるヴァリニャーノのもとに使者を派遣して、彼が来日する際二百名の軍隊を伴うべく要請すること、さらに彼から、スペイン国王・インド副王・フィリピン総督に軍事援助を要請してもらうことの二点を議決した。七名の司祭中、反対はオルガンティーノ一人で、使者にはモーラが選ばれた。
 マカオでモーラに会ってこの計画を知ったヴァリニャーノは驚愕して、ただちに総会長宛書簡(六月一二日付)で、この計画の危険性を報告し、モーラにもフィリピン渡航を禁止した。だが、ヴァリニャーノが来日後明らかにしえたところによると(一五九〇年一〇月一四日付、総会長宛書簡)、コエリュの策動はこれにとどまるものでなかったのである。{br・・・