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WORLD

《世界のキーパーソン》アル=ワリード・ビン・タラル(サウジアラビア王子)

「反逆の億万長者」に出番はあるか

2011年4月号

 民主化運動がアラブ諸国を席巻する中で、サウジアラビアで最も有名な王族、ワリード王子が二月、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、「アラブの指導者は改革に踏み出せ」と主張した。絶対王政のサウジで、政府批判は重罪だ。アブドラ国王のおいが、「国王の政策は正しい方向」と留保をつけながらも、「若い世代の広範な(政治)参加」が不可欠としたのだから、同国の支配層は騒然となった。
 ワリード王子は寄稿の中で、アラブ騒乱の背景として、「持てる者、持たざる者の格差拡大」をあげた。自らは国際的投資家として、約二百億ドルもの資産を有し、米誌「フォーブス」億万長者ランキングの上位常連なのだから、彼こそ「持てる者」である。祖父はアブドルアジズ初代国王、母方の祖父はレバノンのエルソルハ初代首相という血統、世界一豪華なエアバスA380のオーナーなど、王子はいかなる意味でも、街頭で騒ぐ人々の代弁者ではない。
 ところが、これだけ資産家の王子が、サウジアラビア宮廷の政界では、何者でもない。父親タラル王子は以前から「自由化」を求めてきた異端児で、一家は政治の中心から外されているのだ。
 しかも、・・・