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連載

本に遇う 連載135

「葬儀無用」と高峰秀子
河谷史夫

2011年3月号

 NHK朝の連続ドラマは父親の影が薄いことを特徴とするが、今の「てっぱん」に至っては、端から「父無し子の物語」である。
 尾道に流れてきた若い女が父無し子を産み、すぐに死んだ。人の好い夫婦のもと実子同然に育てられた娘が、自分は養女だったと知る。偶然に実母の母と出会い、その祖母の住む大阪へ出て、お好み焼き屋になる。そこにまた「父無し子」を宿した女が転がり込んで―と父親不在に徹している。
 猿の国で子を産み育てるのは母猿の仕事で、用済みの父猿はどこかへいなくなるそうだから、NHKの連ドラはあえて遠いご先祖様の生態を今に蘇らせ、見せてくれているのかも知れない。
 猿は気にしないだろうが、人だと人工授精の子が「父を知る権利」を主張するというご時世だから、いずれ主人公は「不在の父」のことに悩むに違いない。
 親がいないのも苦労の源だけれど、いすぎて厄介な人生もある。
 元旦の新聞は、女優高峰秀子の訃を報じた。旧臘二十八日に八十六歳で他界していたという。「葬儀は一切無用」との遺言があったとは彼女らしいと思った。
 この人にはあるとき親が六・・・